2010年6月2日水曜日

デザインコンセプト特別講義 澄川伸一 6月2日

  • 澄川伸一さんの経歴と思考の変遷
山崎先生による澄川さんの紹介。Good design awardの審査員の関係で知り合った。 大学は千葉大だった。津田沼の予備校でアルバイトをしていた。 IDよりは、外部から講師の人が来る空間デザインに興味があった。たまたま、ソニーの選考を受けたら通ってしまい、そこからIDの世界に入り込んでしまった。 いま考えるプロダクトデザインと昔考えるプロダクトデザインはかなり違う。昔は車に象徴されるように、地味な存在だったと思う。いまでは、プロダクトデザインのイメージはよくなってきたので、時代の変化を感じる。 ベースになっているのは、ソニー時代の仕事の進め方。澄川さんは、大きい会社に一度入ってしまうことが大事だと考えている。営業や製造などのデザイン以外のことを経験できるのは、大きな会社ならでは。また、大きな会社では比較的大きな仕事が回ってくる確率も高い。 デザインするときに、デザイン以外のことをいかに20代のうちに体験することが大事。その経験が30代、40代になってデザインに生きてくる。人と違うことをどれだけやれるかがその人の魅力に繋がってくる。 課題が忙しくても、いろんな経験を積むこと。それがあとで役に立つ。独立した動機というのは、死ぬまで電卓のボタンをやって終わる人もいるが、それはいやで、身の回りのものをすべてデザインしたいというのが、独立した原動力になっている。 いまも仕事自体は非常に忙しく、締め切りに追われる日々を送っている。からだを鍛えることは大事。いつも鼻水をたらしているようでは、仕事が回ってこないと言っても過言ではない。 とにかく元気で体力がある。それはデザイン以前の問題。フリーランスになるとその部分がさらに大事。締め切りの何日も前に完成させて、ブラッシュアップさせることでデザインがよくなっていく。 できるだけ余裕を持ってデザインを仕上げる。
  • ポートフォリオについて
あとは作品集。毎年雇ってくださいとお願いする学生が出てくる。基本的に、デザインはひとりでやる。3Dのソフトの線一本でも他人がやったのは違う。ヨーロッパの学生は、自分を売り込むのが、非常に熱心。オランダのデザインが最近は非常におもしろい。ドローグデザインやPhilipsのデザインもおもしろい。ヨーロッパの学生は、いきなりPDFを澄川さんのところに送ってくる。澄川さんも送られて悪い気はしない。まずはポートフォリオの完成度。紙のポートフォリオよりもPDFのポートフォリオを用意すること。これは世界標準です。
  • アイディアの出し方
今日は、アイディアの出し方の話をする。 プロダクトデザインにおけるコンセプトの見つけ方
  1. すべてのヒントは現場にある
  2. まず、現場に行ってみる
その行動力が他人と差をつける。
  • SONYのころの話
ソニーにいたとき、4年間はアメリカのニュージャージーにいた。日本でデザインしたものをアメリカでうっていて、それを見直そうということになった。日本のデザイナーが想定したベルトクリップは、腰につけてもらえず、アメリカの人は、手にもってウォークマンを使っていた。 手に吸い付くようなウォークマンのデザインを提案した。嘘のようにスムーズに製品化された。グリップウォークマン。ナイキやスキーシューズに曲線的なテイストが用いられるようになった。その影響でグリップウォークマンには、曲線が用いられている。企画書がきてやるインハウスデザイナーの仕事の他に、自分で提案することをぜひやってほしい。デザインの発注がきたと同時に現場に出向くのが基本になっている。
  • タワーレコードの音楽自動販売機
iTunesなどで音楽販売が普及される前(2000年頃)のタワーレコードのデザイン。タワレコはガラス張りの店舗なので、音楽の自動販売機を置くときは側面のデザインが大事だと考え、デザインの基本に据えた。 まず、プライオリティーをつけてみる 課題でも何でもそうなのだけど、全部を同等に捉えると手が進まなくなる。何かを犠牲にして、何かを生かす。必ず相手に何が大事かを初期の段階で、明らかにする。プライオリティーの低いことを消し去ることで、いいデザインをうみだすことができる。
  • プロ用一眼レフカメラ
MamiyaZDのプロ用のカメラをデザインした話。プロ用になればなるほど、レンズの値段の方が高くなってくる。アナログからデジタルに移行するとき、プロの方は数百万円する資産を持っている。コンセプトは、いままで持っていたレンズに敬意を払うこと。レンズを取り付ける台座をちょっと強調したデザインにしてみた。一眼レフカメラのデザインは難しい。片手でシャッターを押しつつ、レンズの絞りを調節できるようにしないといけない。その他に重量バランスも考慮しないといけないので、一つデザインするとかなりヘロヘロになる。 10色以上の黒を用いている。黒の使い分けをしている。そこにもプライオリティーが発生している。 一眼レフをデザインするときに役立ったのが、SONYのころにデザインしたラジオ。世界時間を搭載したラジオだった。マニュアルがなくても何となくわかる。ベースに対してコントラストや面積が大きいほど重要なパーツである。 階層化させるという部分。いまはiPadやiPhoneにしても物理的なボタンがなくなってしまった。しかし、ソフトウェアによるボタンは押したときの安心感がある。そこで揺り戻しが起きるかどうか興味深い。
  • 澄川さんの作品と意図
動きをデザインしてみる 自転車のデザイン機で、川崎デザインコンペで優秀賞を受賞した。潮の満ち引きに例えて、デザインしてみた。自転車が置かれていないときの駐輪機はかっこわるい。 浴槽に入ると湯船の水位が上がる。その動きを何か表現できないか。水位が上がると肘掛けなどが独立した島として現れる。 pecon! 外国で評判が良かった。Ashコンセプトで販売されている。 軟式のボールを切って反転させることをしていた。そこから発想したのが、pecon!である。エッシャーの騙し絵もそうだが、地と図の反転はいろんなことに活かせるのではないかと考えている。 Pekon vitamin case. Ashコンセプトの社長に、7年前金型がつくれなかったものがつくれると声をかけていただき実現した。 かたちを考えて、思いつかないときは、CADを使用するのをやめて、粘土や発泡スチロールなどを用いて、手にフィットするかたちから考えてみる。 日本酒の器の話。立食パーティで手に持って使えるようなものを目指した。婦人用の体温計。女性が朝起きて一番最初に目にするものなので、その観点から見て、よくなるようにデザインした。 視点の転換 頭の上にカボチャを乗せている人の写真。頭の上にモノをのせることで、遠くの人から見つけやすくすることができるし、その結果、売れる可能性が高まる。 倒れるものをたてると価値が発生する タイルの一部を傘立てや一輪挿しができるように組み替えられるタイル。 同じような発想で、立たせる歯ブラシを考えた。歯ブラシには、歯ブラシケースがあるが、ブラシの部分は乾燥させたい。そこで立たせる必要があった。 靴べらの話。玄関先に、セルロイドの靴べらがあるが、お客様に使われたりする可能性のあるものなのに、かたちがよくなかった。贈り物などでよく用いられる。 独立後、最初に手がけたデザインの話。モックに60万円のお金をかけた。賞がとれたのでトントン。 漆のお盆の話。同心円をちょっとずらすことで、 日立のプロジェクタの話。光量が強いので、そのイメージをデザインするときに、スポーツカーの力強さからインスピレーションを得た。 陰で魅せる時計。針は三角形でできている。MOMAに収蔵されている。 古いものを再構築してみる 漆はモダンな色が多い。結構埋もれているような色を使うことで現代的な表現を可能にする。 世界一美しいハンガーをつくろうと考え、ハンガーがかかっていない状態が美しいハンガーをつくった。 ダンベルを持って走っている人を見かけたが、別にダンベルである必要はないと考え、美しいスポーツ飲料のケースをつくった。持って走ることも想定されている。 潜在意識下の色を使用。ヒントは現場にある。
  • 発想のストック(海外旅行のすすめ)
海外で見つけたもの。大学の後半から、バックパッカーのように海外をふらふらふらふらしていた。 20代のメインの趣味がバックパッカー。57/220カ国訪れた。いまは治安も悪いので、おすすめはできないが、海外の何も知らないところへ行ってみるとおもしろい。 青い雪の話。氷河が青いだけで、非常に美しい。 アメリカでおもしろいのは、ユダとかその周辺。ラスベガスに行ったら、グランドキャニオンに行くことをお薦めする。こういうのは、その場に行かないとわからない経験。 観光客が行かないような場所にレンタカーで行く。ソルトレークシティに近い猿の惑星などのロケ地の写真。 トルコのカッパドギアの写真。 ヒマラヤ、アンナプルナというベースキャンプまで行った。カトマンズから往復2週間で行けた。2週間という時間は、社会人になってからでは難しいので、いまのうちにいくことをお薦めする。 モスク。蟻塚を崩してつくった建築の写真。昆虫は調べれば調べるほどおもしろい。 ここでもスターウォーズの撮影があった。なるほどなと思った。 風 アルゼンチンの国道。フロントガラスの前に金網をつけないと動物が飛んできて、フロントガラスが壊れてしまう。これも現場にいないとわからない。 世界を変えるデザイン展の話。ドーナツ型の水を転がして運ぶことができるデザインの話。まだ開催中なので見てほしい。 仮面 ニューギニア。昔は部族間の抗争は頻繁に起こった。いまでは、お面の見せあいだけが残った。炎天下でお面がドロドロにとけてしまう。 ブータン。非常に日本に似ている。チベットの国。色の使い方が違う。それがおもしろい。共通項が違うところであるのはおもしろい。 ハイチの乗り合いバス。ペイントするのが当たり前で、ハイチではあまり色がない。その中でのデザインが非常におもしろい。 ポルトガルのナザレという町。 絵文字 亀のギター。モロッコで発見した。衝撃的だった。 セネガルの床屋さん。看板が非常に魅力的。これをアートとしてしゅうする人が出てきた?? いろんなところに行くと、いろんなものを見る。ロバが自分の体積の20倍くらいの藁を運んでいる写真。 モスクワの地下鉄の話。透明なおはじきのようなMのデザイン。軽いので何枚ポケットに入れても重くならない。 モスクワというと固いイメージを井達いる人が多いと思うが、アールヌーボーの天国。 できるだけ情報の少ないところに行って何かを見つけることが非常におもしろい。けがや事件に巻き込まれないうちにいろんなところへ行くことが一番伝えたいこと。
  • 質疑応答
Q. いつから曲線に興味を持ったのか?
A. もともと興味があった。昔は想像した曲線をうまく表現できなかった。3DのCADが15年前に登場したときに、やりたいことができるようになった。曲線から局面を構成している。ライノセラスを使っている。 いま、3次元の世界でモデルをいかにつくるかということに関して世界が進んでいる。光造形だと1日あればモデルをつくれるが、3Dプリンタだと2~3時間でできる。会議中にちゃちゃっとつくってメールを送れば、すぐに作成することができる。 3次元をレンダリングのためだけに使うのは、もったいない。それから現物をつくることでイラレやフォトショップでは得られない大量の情報が得られる。昔は、イラレから3面図をつくって3Dに直して、というプロセスを踏んでいたが、いまではすぐに3Dからつくれることがデザイナーに求められる価値 スケッチよりも3Dで早くつくれることがこれからのデザイナーにとって非常に重要である。
Q. 世界を旅されることで得たものは?
A. 例えば、電車のつり革にしても日本では、丸く中が開いていて掴むことができるタイプのものが普通だが、ロンドンでは、握るタイプのつり革がある。現場での吸収力がデザインに生きてくる。 特に東欧は一種の鎖国状態なので、その中から出てきたデザインは非常におもしろい。感動を覚える。例えば、段ボールで出来ていた車もあった。 自分で当たり前だと思っている答えが地球の裏側であって、それが実は重要なんじゃないかと感じる。 青山に行けば深澤直人がデザインした加湿器を見ることが出来るが、それだけを見ていたらデザインは出来ない。むしろ、デザイナーがデザインしたものを見ない方が、新しい加湿器をデザインできる。
Q. ロジカルにデザインを考える方だと感じたが、感覚的にデザインを発想されることはないのか?
A. ロジカルと感性は両立して、進んでいる。澄川さんが元々いたところは、ロジックが強い学校だった。それに反発するかたちで、美しさを追求するようになった。 デザイナー同士で話を進めるときは、感性的で通じるが、営業などの別分野の人と話をするのはロジカルじゃないといけない。 人がモノを買うときは、ロジカルに考えていない。感性的に判断している。あまりロジックに偏りすぎるとよくないが、感性に偏りすぎてもよくない。 ロジックに考えることは誰でもできることで、それを追求するのはデザイナーの仕事ではない。
Q. ロジックに関連して、エンジニアリングの話。3Dなどで簡単につくれるとそれがそのままつくれると勘違いする人も出てくると思うが、澄川さんは最初から製造のことを考えてデザインできたのか?
A. 企業に入ってから、学ぶことが非常に多かった。教科書で金型のワリを学んだが、企業に入れば嫌でも学ぶことが多い。いまのうちは、実務の知識を学ぶ必要はなくて、デザインのストック、分母、美しいデザインをいまのうちに学んでおくことが重要じゃないかと考える。 自分の作りやすいかたち、自分のつくりたいモノはなんだろうということを考えるのが先決。技術はどんどん進んでいくので、かたちをつくることが重要。

0 件のコメント:

コメントを投稿